「年金制度改正法」が成立。企業経営への影響は?
概要
2020年5月29日、公的・私的年金の改革法「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日公布されました。
この改正法は、より多くの人がこれまでよりも長い期間に渡り多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものとされています。
長寿化が進む中で、今回の改正により、年金を少しでも増やすための選択肢が広がります。まずは、今回の改正のポイントを施行時期とともに概観
企業経営への影響は?
では、今回の法改正による企業への影響はどこにあるでしょうか?
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パート・アルバイト従業員の厚生年金加入の対象が拡大
これまで、従業員500人超(501人以上)の企業は、週20時間以上の時短労働者も原則として厚生年金に加入させなければなりませんでしたが、今回の改正により、対象企業の範囲が広がります。 ・2022年10月から:100人超(101人以上)の企業が対象に ・2024年10月から:50人超(51人以上)の企業が対象に
そのため、従業員が50名を超える企業で、週20時間以上のパート・アルバイト従業員を雇用している企業においては、将来的に保険料(事業主負担分)負担が生じることになります。
働くパート・アルバイト従業員にとっても保険料負担が生じることになりますが、基本的に、平均的に長生きすれば将来の総年金受給額が保険料負担額を上回る制度設計となっているため、勤務時間を20時間未満に調整する従業員はあまり出ないのではないでしょうか。
優秀な人材の確保・福利厚生制度の充実にイデコプラス(iDeCo+)の活用を!
中小企業では独自の企業年金制度を設ける余裕はなかなかありませんが、優秀な人材を採用し、また、引き留めておくために、福利厚生制度を充実させることも重要です。
イデコ(iDeCo 個人型確定拠出年金)は従業員が自ら掛け金を拠出する制度ですが、事業主が一部掛け金を上積みできるのがイデコプラスです。例えば従業員が月1万円を自ら拠出、事業主が上積みとして追加で1万円を拠出するなどの運用が考えられます。事業主の掛け金は税務上の損金になる上、事業主の掛け金の金額に対して従業員に税負担や社会保険料負担は一切発生しません。
従来は「従業員100人以下の企業」がイデコプラスを利用できる対象でしたが、2020年10月より、イデコプラスを使える企業が「従業員300人以下の企業」に拡大されます。
伝統的な退職一時金制度は、本来、会社内部に積立て(引当金を計上)しておく必要がありますが、1998年に退職給与引当金の損金算入制度が廃止されて以降は、適切に引当金計上を行う中小企業が減少しており、従業員退職時の要支給額の資金確保の観点からも、制度の運用が極めて脆弱となっています。
こうした伝統的な制度に替えて、企業型DC(確定拠出型年金)制度を導入する企業が増えていますが、企業型DCを導入していない中堅・中小企業でも、イデコプラスを使えば、企業型DCと同様のメリットを従業員・事業主ともに享受でき、優秀な人材確保に資するばかりでなく、企業財務の健全化にも繋がります。 そのためにも、企業経営者は、従業員の資産形成・老後資金確保についての啓蒙もしっかりと行っていく責務があるのではないでしょうか。