消費税とポピュリズム政治
野田佳彦元総理の功績
先月、安倍晋三前首相が辞意を表明した後、7年8か月に及んだ第二次安倍政権の功罪が議論されましたが、同じ頃、あるネットアンケートがありました。「戦後の歴代総理大臣で誰が最も功績を挙げたと思うか」 私は反ポピュリズムを貫きこの国のために殉職された(笑)野田佳彦さん選ぼうと思いましたが、残念ながら、民主党政権時代の総理大臣はリストにありませんでした。
第二次安倍政権での2度に及ぶ消費税率の引き上げ。選挙に強い安倍さんだからこそ、国民に不人気な消費税増税を実現できたとも言えますが、そのレールを敷いたのは先の民主党政権。2012年、自らの命と引き換えに消費税増税法案を作り、民自公3党合意を成し遂げた野田佳彦さんの功績はとてつもなく大きいと私は思うのです。その前の菅直人元首相が2010年当時、突然消費税10%論をぶち上げ支持率を急速に失い退陣に追い込まれた逆境を跳ね除け、野田さんがやってくれました。もっとも、この時も、民主党の支持率はじり貧。野田さん自身も余命を悟っていたのでしょう。だからこそ、真に国家のための英断を下せたのだと思います。
ポピュリズムの怖さ
安倍さんは本当にラッキーでした。国民に不人気の消費税増税法案は民主党政権が作ってくれて、自身はそのレールの上を走るだけでしたので。8%から10%に上げるのを2度も延期しましたが、最初の延期の際、「消費税増税を延期することについて国民の信を問う!」などと言って選挙に臨んだ安倍さんも結局は私に言わせれば「ポピュリスト(大衆迎合主義者)」でした。
中国共産党の強権的な姿勢が目立つ中、西側陣営の共通の価値観である民主主義の重要性が叫ばれていますが、一方で、民主主義は常にポピュリズムのリスクを孕み、ポピュリズム政治は間違いなく国家を弱体化させます。れいわ新選組の山本太郎氏が典型ですが、一見、国民にとって聞こえのいい「消費税廃止」「教育完全無償化」「奨学金返還義務免除」「公務員を増やす」など、単なる人気取りとしか思えない政策を掲げています。もし、無知で無邪気な国民が、自らの懐事情が改善すると思い込み、こぞって「れいわ」を支持し、仮にこうした政策が採られたとしたら、国家破綻は目に見えています。得てして、国民一人一人が好む政策は、必ずしも国家全体のためにはならないものであり、特に財政問題は合成の誤謬の典型と言えます。
プライマリーバランスとは?
コロナ禍で国・地方の歳出が膨らみ、今年度の財政赤字は史上最悪となることが見込まれています。我が国ではかねてから財政健全化が謳われ、しかしながら、社会保障費の増大、加えて景気刺激策の名の下、歳出は増える一方で、プライマリーバランスの目標達成時期を幾度となく後ろ倒ししてきました。この度のコロナ禍で、残念ながら、プライマリーバランス達成のゴールテープは見えないところまで遠ざかってしまった感があります。
プライマリーバランス(基礎的財政収支の均衡)とは、国債の発行や償還等を除く、国の収入と支出が均衡した状態だというのですが、実は支出には国債の利払い費用は含まれていません。よって、プライマリーバランスを達成した場合でも、国債の利払い費用は、新たな国債の発行によって賄わなければならないのです。企業の損益計算書に例えて言うならば、借入利息の分だけ経常損益がマイナスの状態であり、会計士の感覚からすると「均衡」と言うにはやや違和感を覚えます。
そもそも、マイナス金利がニューノーマルとなってしまったこの時代、財政に対する国民的関心はほぼ無いに等しい状況になっています。しかし、時々、こうしたグラフ(↓)を見せられるととても恐ろしくなります。どう見てもサステナブルではありません。
間違いなく来ますね。個人や企業が持つ資産と政府債務のオフセット(相殺)。すなわち大増税時代の到来です。
しかし現実はどうでしょう。日本の政治にもポピュリズムが蔓延し、財政健全化を唱える政治家が非常に少なくなっているのが大変気掛かりです。政治家たるもの、国家のため、国民個人にとって耳の痛い話であっても確りと説明を尽くし、国民を正しく導くのが本来の仕事であるはず、なのですが。。
私も若い頃、一瞬、政治家になろうと思ったことがありましたが、当選は無理ですね。私のような財政健全主義者は一般受けしませんから。
菅さん、よく言った!
先日の自民党総裁選の論戦の中で飛び出した菅さんの消費税増税発言「将来的には引き上げざるを得ない・・」 私はこの番組を見ていて「よく言った!」と叫びました。既に圧倒的な支持を集めていた余裕から出た本音だと思います。その後、波紋を広げ、「あくまで将来の可能性の話」とか「10年間は上げない」などと釈明していますが、総裁選を圧勝した勢いで、この問題にしっかりと向き合い、国民に対してもちゃんと語って欲しいと思っています。
昨日、いみじくも、経済同友会から「消費税は10年を待たずして上げる必要がある」「17%でも足りない」との提言がありました。
IMFも日本の消費税率は「2030年までに15%」「2050年には20%は必要」と試算しているようです。
しがらみが無く、様々な改革に意欲を見せている菅新総理。71歳とやや高齢なのが気になりますが、ポピュリズムに流されず、長期的な視点で、真に国家のためにリーダーシップを発揮されることを期待しています。